甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
「シンガポール」

「シンガポール?!」

「うん、そう」

不安は的中した。シンガポールはどう考えても北海道よりも遠いよね。

弥生が心配そうな目で私の顔を覗き込む。

「寂しい?私が結婚することに?それともシンガポールに行っちゃうことに?」

「どっちも、かな」

私は苦笑しながら、まだ一口も飲んでいなかった三杯目のカクテルに口を付けた。

弥生はわざとらしく明るく笑い、彼とのなれそめを話し始める。

彼は、弥生の職場に一年前に転勤してきた後輩で、私たちより一つ年下。

年下に好かれるのは、なんだか姉御肌の弥生らしくて納得だ。

先週彼にシンガポールの内示が出て、すぐにプロポーズされたらしい。

「たった一年で結婚なんてよく決めたね」

「結婚決めるときはそんなもんみたいよ」

弥生は嬉しそうな顔で笑った。

「弥生は仕事はどうするの?」

「もちろん、シンガポール支社で私も仕事が続けられるよう交渉中」

色んな苦労を重ねてようやく自分の居場所を見つけた弥生には今の仕事を続けてほしかった。

「社内婚で仕事を続けるのは難しいんだけど、上司にそこをなんとかねじ込んで!って頼んでる」

「弥生らしいね。でも、普通じゃ考えられないことも弥生ならうまくいきそうな気がする」

私は首をすくめて笑った。

弥生も頷いて微笑む。

「シンガポールに行く前に二人で簡単にチャペルで式を挙げようと思ってる。家族だけ呼ぶ予定だけど、半分身内みたいな凛には来てほしいんだ」

「もちろん行くよ!」

なんだか泣きそうになった。

弥生が結婚する。少し寂しい気持ちもあるけれど、これまでの苦労知っているだけに幸せを願わずにはいられない。

「凛、なんだか変わったね」

涙を必死に堪えていたら、弥生が前を向いたまま言った。

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