甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
「私、こういうの慣れてないので」

「わかってる」

彼も前を向いたまま頷いた。

「だから、広瀬さんを傷つけたり不安にさせるようなことはしないよ。あくまでぷーすけのためだと思ってくれればいい」

私がこれしきのことで緊張しまくってやっかいだと思われたかもしれない。

そして、間宮さんが私にこれっぽっちも下心がないってことを伝えたかったんだと思う。

さっき抱き留められただけであんなにも動揺してる私に。

その言葉は、私をある意味安心させたけれどまったく女性としてみられてないんだと感じたことは、わかってはいたけれどやっぱりショックだった。

道はとても空いていて、すぐに間宮さんのマンションに到着する。

あれから少ししか経ってないのに、マンションや町の風景はとても懐かしく感じた。

「ぷーすけは、今日君が来ることをまるで知っているかのように朝から興奮気味でね。申し訳ないけれど相手してやってほしい」

「もちろんです」

車を降り、リュックを背負う。

スーツケースは間宮さんが持ってくれた。

エレベーターで5階まで上がり、玄関の前にたどり着いた。

玄関を開けようとしている間宮さんの背中をじっと見つめる。

背後からなら気づかれずに好きなだけ彼のこと見つめられる。

扉がゆっくりと開き、その奥からタタタタタ……と小さな爪が床に当たる音が近づいてくる。

そして、「キャン!」と甲高い鳴き声が響いた。



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