甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
「いえ、大丈夫です」

私はぎゅっと両手を握りしめて少しだけ笑って答えた。

間宮さんはそんな私に安心したのか口元を緩めて頷くと、「じゃ、行こうか」と言ってエレベーターの方へ体を向けた。

自分の殻を破るって難しい。

本能に忠実になることは、もっと難しい。

でも、そうしなくちゃ恋はできないのかもしれない。

だけど、臆病な私は相手の気持ちがわからないと一歩も踏み出せないような気がする。

その相手の気持ちを知ることが一番難しい……。

皆、どうやって恋を成就させているんだろう。

恋する相手が自分に恋してくれるなんてきっと奇跡だ。

恋は奇跡。

私にもそんな奇跡が起こることがあるんだろうか。

そして、私は再び彼の助手席に乗った。

ランチは、最近できたという近所のフレンチレストラン。

「間宮さんはたくさん素敵なお店を知ってるんですね」

小さいながらも、厳選されたアンティークな家具が置かれ落ち着く店内の雰囲気に感心する。
店内の所々には野に咲くような名も知らない華憐な花が飾られている。

きっと間宮さんは周りの女子たちよりもおしゃれなお店を知ってるんじゃないかしら。

案内された窓際の席に座ると、彼は新しくできたおしゃれなお店にデザインのインスピレーションをもらいにいくんだと言った。

彼のしていること全て、デザインの仕事に直結するんだ。

本当に彼は仕事を愛していて、仕事のために生きてる人なんだと思う。

間宮さんにとって『恋』はデザインのインスピレーションにはならないのかな。

ふとそんな勝手なことを思って顔が熱くなった。




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