甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
島に乗り上げると、間宮さんは船着き場に船をしっかりと固定する。

ぷーすけは砂浜を行ったり来たり、思い切り走り回っていた。

こんなにもいっぱい走れるなんてぷーすけも幸せだ。

連れてきてあげてよかった。

そんな様子を見つめながら、私もきゅっと固くなっていた心が少しずつ溶かされていく。

つばの広い帽子を目深に被り、裸足になって砂浜を歩く。

間宮さんはジーンズの裾を上げて、波打ち際まで進んでいった。

そして私の方を振り返ると「気持ちいいよ。来てごらん」と言った。

私も白いチノパンの裾をまくり上げ、そっと海水に足をつける。

ひんやりと冷たい海水は都会の海と違ってべたついた感じはなくさらさらと足の間をすり抜ける。

ゆっくりと海水と砂の感触を楽しみながら歩いていると、急に足の親指がチクッと痛み後方によろけた。

その瞬間、そばにいた間宮さんが私の腕をしっかりとつかんでくれたおかげで倒れずにすむ。

「大丈夫?」

「はい、ありがとうございます。今足先がチクッとしたんですけど」

私の足元に彼は顔を近づけると「ふふ」っと笑い私の顔の前に赤い小さなものを手のひらの上に乗せて差し出した。

思わず何かわからず「ひゃっ」と声が出る。

「カニだよ。砂の下に潜んでたんだ」

間宮さんの手のひらに乗っているカニは、とても小さいけれどちゃんとカニの形をしていることに感心する。

「カニだったんですね。びっくりしたぁ」

彼は微笑み、そっと海水の上にカニを戻した。
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