甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
間宮さんの腕が緩み、私のすぐ目の前に彼の顔がくる。こんなに近くに彼を感じたのは初めてだった。

雨で垂れた前髪から滴るしずくが、石膏のように綺麗な彼の肌に幾筋も流れ落ちている。

そのしずくが、まるで彼の美しい切れ長の目から落ちる涙みたいに見えた。

「君って」

彼の唇がそんな風に言ったような気がする。

そして、その直後彼の顔が更に近づき私の唇が柔らかくて熱いものでふさがれた。

背中に回されたたくましい腕が私の体をぐっとその胸に引き寄せる。

さっきよりもずっと強く抱きしめられた体はまるで彼に固定されているようだった。

そして塞がれた唇。

これって、いわゆるキス?今、私がキスしてる相手って?

あまりに突然の出来事に思考回路が一瞬停止する。

それからじわじわと鼓動が速くなり胸がきゅんと締め付けられた。まるで自分であって自分でないような、制御不能になりそうな熱い感情が体の中からあふれでてくるような。

それは以前小説で読んだ、甘くてやさしくて泣きそうになるような感覚。

いやそれ以上に切なくて体も気持ちも全てが甘く溶けていくようだった。

全身の力が抜け、彼に全てをゆだねる。

一度離れた唇はすぐにまた優しく私の唇に戻ってきた。まるで私の気持ちを推し量るように何度もそんなキスが続く。

唇を重ねているうちに激しかった雨音が次第に優しい音に変わっていった。

そんな私たちの間に挟まれたぷーすけはこの事態を理解できないのか、それとも何かただならぬ空気を察したのか、力なく投げ出された私の手を舐め始めた。

思わずくすぐったくてキスされたまま笑ってしまう。

間宮さんはそんな私に気づいて、強く引き寄せていた腕をようやくほどき、私の手を舐め続けるぷーすけに視線を落とす。

「やっぱり連れてこなきゃよかったかな」

そう言って苦笑すると、私の膝の上にいるぷーすけを抱き上げ床に下ろした。

そして、再び私の正面を見据え言った。

「好きだよ」

まっすぐに見つめる彼の目を必死に見つめ返す。

夢みたいだ。

彼が私に好きだと言ってくれてる。

そして、彼はまた優しく私を抱き寄せ、耳元でささやいた。

「君の全てを僕に預けてくれないか」
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