甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
そのうち母がお盆に紅茶を入れて持ってきた。

母の背中から感じていた通り、母の表情は険しく後ろに束ねた髪が一層細い母の顔を鋭く際立たせている。

母も白髪が増えた。

昔はとても美しい人だったと親類から聞いていたけれど、今は険しい表情に刻まれた皺のせいでその当時の美しさなんて微塵も感じ取れない。

母は私の目を見ずにティーカップを私の前に置くといきなり本題に入った。

「で、今どこにいるの?」

父もさすがにそんな母をなだめる。

「おいおい、いきなりその話か。もう少し凛の近況報告なんかも聞いてみないか」

「いえ、今日はその話で帰ってきてもらってるんですから」

母は頑なに正面を向いて父の言葉を一喝した。

母がこういう状態になったら、だれも何も言えない。

素直にその流れに従うまでだ。私も意を決して話し始める。

「今は知人の家にいるの」

「知人?お母さんの知ってるお友達かしら?」

母の口元がわずかに痙攣している。

きっと約束を破った私への怒りが収まらないんだろう。

できるだけ穏やかな声で話す。

「お母さんの知らない人。いわゆる何でも屋さんをやってるパーソナル・サポートを運営している社長さんの家よ」

「なんでも屋さん?何なのその軽い職業は?」

「軽くなんかないわ。助けを必要とするために寝る時間を惜しんで働いてる人よ。それにもともと彼はデザイナーなの」

「彼?!」

しまった。女性か男性かは最後まで伏せて話そうと思っていたのにうっかり口を滑らせてしまった。
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