甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
「まさか男の人の家にあなた住んでるっていうんじゃないでしょうね?一体どういう素性の人なの?」

母は一気に前のめりになり私の目を厳しい目でにらむ。

だめだ。

この目が昔から怖かった。

何も逆らわず、母の言うことを聞いていようと思ってしまう目。

「ごめんなさい。犬の世話を住み込みで頼まれたの」

「え?どういうことかしら?何でも屋さんがあなたに仕事を依頼したっていうの?そんな頼りないことで仕事は成り立ってるの?」

思わず耳を塞ぎたくなる。

「男性の家に住み込みとなると、お父さんも許してはおけないな。どういう男性なんだ。デザイナーの仕事もやってるのか?」

父の表情も険しくなっていた。

「大丈夫よ。心配するようなことは何もないし、ただ犬の世話をしているだけ。その社長さんもとても優しくていい方だわ。デザイナーのお仕事もやっててとても忙しい人だからそのお手伝いをしているの」

「どこのデザイナーだ?」

父は胸の前で腕を組む。

名前まで言ってしまっていいんだろうか

今の母の状態なら、仕事場に乗り込んでいきかねない。
彼に迷惑かけるようなことがあったら困る。

「もうその頼まれていた仕事も終わったから、明日からはまた家に戻るわ。もうおしまいにするから心配しないで」

必死だった。樹さんに迷惑かけたくない、それだけ。

もう樹さんと一緒には住めない。

両親の前に立ちはだかっている壁は容易に壊すことはできなかった。

そんな自分に悔しくて腹立たしい気持ちがわいてくる。
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