甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
「犬のトリマーを目指します」

はっきりと父の目を見て言い放った。

「トリマー?いわゆる犬の美容師か?」

父は怪訝な顔をしながら母の様子を伺う。

「犬の美容師?そんな仕事でやっていけるの?」

「私はずっと犬が好きだった。だけど飼ってもらえなかったでしょう。せめて犬に関わる仕事がしたいの」

私の意思の固さに、両親はそれ以上何も言えなくなっていた。

「まぁ、お前がそれほどまでにしたいというなら、やってみなさい」

「でも、本当に凛にそんな仕事務まるのかしら?今までお母さんがそばにいないと何もできなかったのに」

母は口をへの字にして首を横に振った。

「もし、私がトリマーとしてちゃんと仕事ができるようになったら」

二人の顔を交互に見ながら続けた。

「私が本当にお父さんとお母さんに伝えたい気持ちを聞いてくれませんか?」

これは一つの賭けだった。

初めて自分で決めた道を歩けたってことを証明した時にしか伝えられないこと。

母は目を丸くして私を見つめている。

「凛、あなたしばらく見ないうちに変わったわね。ねぇ、お父さん?」

「ああ。なんだか強くなったな。今まで『はい、わかりました』しか言わなかったお前が、こうも自分の気持ちを言えるなんて」

父母は戸惑いながらもそのことを了解してくれたようだった。
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