甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
その時、受付の向こうの事務所から甲高い女性の声が響いた。

「あら、あなた、またその大事な書類をこんな場所に置きっぱなしにして!何度言ったらわかるのかしら?」

「はい!すみません、すぐ片付けます!」

おそらく、この学校の理事長だか、えらいさんに事務員が叱られているんだろう。

私の前に座ってる女性が苦笑して私に頭を下げた。

「うちの理事長なんですけど声が大きくて、大変失礼しました。でも、普段はとても尊敬できるすばらしい方なんですよ」

フォローを入れているんだろうけど、こわそうな理事長をイメージしながら苦笑した。

その時だった。

「あら?あなた?」

さっきの理事長らしき声がすぐ近くで響く。

その声の方に顔を向けると……。


「安友さん??!」

視線を向けた先には、車いすに座った安友さんがあの時のように品のいい佇まいでこちらを見ていた。

「確か、ええっと、トータル・サポートでお世話になった広瀬さんじゃないの?」

安友さんは車いすを自分で動かしながらそばまでやってきた。

営業の女性は慌てた様子で立ち上がり、理事長である安友さんに頭を下げる。

「まさか、この学校の理事長されてるなんて?」

急な安友さんの登場に動揺してしまう。

「ふふ、実はそうなの。驚いた?こんな体になってもまだしぶとく理事長として残ってるなんてね。口ばっかり偉そうになっちゃって、さっきの聞こえちゃったかしら?」

相変わらずチャーミングにくすくす笑いながら、私の肩を軽く叩いた。



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