甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
樹さんは来春新しく都心にできるシェアオフィスの全フロアのデザインを任されているらしい。

オフィス社長の意向で、今までにない機能的で尚且つ居心地のいいスペースを提供する空間をデザインするよう指示が出ている。

そのオフィスは全国展開していることもあり、今回気に入ってもらえたら、今後のオフィスも引き続き任せてもらえる可能性が高いということでかなり気合が入ってるようだった。

「その仕事と並行して新発売のシャーペンのデザインを文具会社と共同開発していてね。こちらもおもしろい仕事なんだけど、とにかく今は忙しくて時間がない。凛と会えないのがつらいよ」

そんな風に言ってもらえるだけで私は十分だった。だけど、そんなことより。

「食事はちゃんと取れてますか?」

ふと心配になって尋ねる。

もともと器用な彼は自炊もお手の物だけれど、どうしても徹夜が続く多忙な時期はコンビニ弁当ばかり食べていると言ってたっけ。

「何?ひょっとしてご飯、作りに来てくれたりする?」

少し意地悪な言い方で彼が尋ねた。

「今週末の日曜の午前中、安友さんのお宅で講義を受けるんですけど、午後からは何もないので何かご飯の足しになるものを作りに行ってもいいですか?」

「本当に?」

樹さんはまるで少年のようにうれしそうに反応した。

「僕も日曜の夜は家に戻って仕事する予定だからよかったら一緒にうちで晩御飯食べないか?」

一気に私の気持ちが昂る。樹さんに会いたい。ここしばらくずっと会ってなかったから。

「はい!じゃ、日曜日に伺います」

私にできることなんてそれくらいだもの。

その日だけでなく、数日分の食事を作り置きしてあげよう。

ワクワクしてきた。
私にとって料理は自分のためだけで誰かにふるまうものではなかったけれど、初めて大好きな彼のためにふるまえるんだ。

電話が切れた後も、何を作ってあげようか考えていたらなかなか眠れなかった。
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