甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
「引き止めて悪かったわね。さ、彼氏とのデートにいってらしゃい!」

「もう~、デートじゃないですよ」

にやにやしている安友さんに手を振りながら玄関を出ていく。

安友邸の庭にある木々たちが秋色に染まり始めていた。

ジョンがきちんと座り短い尾を振りながら、こちらをまっすぐに見つめている。

未だに私との距離を保っているジョンだけど、明らかにその目は私を信頼している目。

こんなに守ってくれるジョンがいたら安友さんも安心だわ。

ひょっとしたら、ジョンは旦那様の化身かもしれない。

安友邸の大きな門をくぐり、静かにその重たい扉を閉めた。

腕時計に目をやり、まだ夜までたっぷり時間はあることを確認する。

スーパーで大量の買い物をして、樹さんの家に向かった。

彼の玄関を扉を静かに開けると、また男の人の革靴。

もしかしてまた田丸さんが手伝いに来てるのかしら?

リビングの方で激しくぷーすけが鳴いている。

私は急いでリビングに向かった。

ぷーすけは私の方をちらっと見たけれどこちらには来ず、扉の締まった一室に向かって何度も吠えていた。

誰かいるの?田丸さんじゃないの?

だけど、この部屋は確か彼の仕事部屋。

ひょっとして樹さんが早めに帰ってきてるのかしら?

それにしても、この鳴き方は尋常じゃない。

この扉の向こうで何が起きてるんじゃないかしら。

私は買い物してきた荷物を下に置くと、ドキドキ不安な胸を押さえその扉に近づき取っ手に手をかけた。









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