甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
その声の方からタッタッと小さな犬が走る音が近づいてくる。

そのうち足音と一緒に「ハッハッ」とその犬の必死の息遣いも確認できた。

「ワン!」

息遣いが止むと同時に大きな甲高い声が私の足元に響く。

いつの間にかベンチの背後から近づいてきたのか、そのまま私の足元をすり抜けて飛びついてきた。

小さくて鼻の周りが真っ黒の丸い顔をした犬は、思いっきり「はーはー」舌を出して私に笑いかけているように見えた。


この犬種はパグ?

愛嬌のあるその丸い顔は見ているだけで微笑んでしまう。

私の膝に足をかけてきた丸い顔を思わず撫でた。

犬は嬉しそうにもう一鳴きすると、もっと撫でてと言わんばかりに私の手をペロペロと舐めてくる。

かわいい。

世話が大変だからダメと両親に言われて飼ったことはなかったけれど、本当は昔から犬が好きでずっと飼いたいと思っていた。

私はその丸い顔を何度も両手で撫でまわす。

首輪を付けていないのを見ると、きっと思ってた通り飼い主さんの手をすり抜けてここに逃げてきたのね。

飼い主さんの困った顔を、おそらく振り返りもせず走ってきたこの犬にふふっと笑ってしまった。

自由になりたかったんだ。きっと。
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