甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
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それから、また忙しい日々が始まった。

私は仕事を終えた後トリマーの専門学校に。

樹さんもシェアオフィスのデザインが無事採用され現場と事務所の往復に奔走し毎晩帰るのは午前0時を回っていた。

シェアオフィスが落ち着いたらまた新しい仕事が待っていると言っていたけれど、そんなに忙しくて大丈夫なのかしら。

こちらの心配をよそに彼はいつも明るい声で「大丈夫」と言って笑った。

短い秋が過ぎた11月の初めの週末、元気に退院した瀬戸さんがぷーすけの引き取りに来ることになっている。

約束の日、瀬戸さんが来るよりも早めに樹さんの家に向かった。

ぷーすけはいつものように短い尾を必死に振りながら無邪気に私を迎える。

久しぶりに会う樹さんは「おかえり」と言って私の頭を優しくポンポンとした。

ぷーすけの小さな丸い体を抱きしめる。

もうしばらくこの丸い体を抱くことはない。また鼻の奥がツンとする。

だけど、ぷーすけは大好きな瀬戸さんの元に帰っていくんだ。
これが一番のハッピーエンド。

ぷーすけを抱いたままソファーに座ると、樹さんが温かいコーヒーを入れてサイドテーブルに置いてくれた。

そして、彼も私の横に並ぶように腰を下ろし、私の肩に腕を回す。

彼の腕の重みが、ほんの少し自分の寂しい気持ちを紛らわせてくれる。

ぷーすけは知ってか知らずか鼻を鳴らしながら私の口元を何度も舐めた。

「凛、長い間ぷーすけの世話を本当にありがとう」

ふいに言った彼の言葉は思いがけない言葉だったので、目を丸くして私は彼の方に顔を向けた。

「凛がいなかったら、ぷーすけも僕も路頭に迷っていたのは確かだよ。まだ僕のこともよくわからないうちからこんな無茶な願いを引き受けてくれたのは凛だったからだと思う。君の強さと優しさがなければここまで来れなかった。君には感謝しかないよ」

「そんなことないです。それ以上に私は樹さんからもぷーすけからも大切なことをいっぱい学ばせてもらいました」

つまらない自分を変えるきっかけをくれたのは他でもない樹さんとぷーすけだから。

「ありがとう、ぷーすけ」

私はぎゅっとぷーすけを抱きしめた。

そして、そのまま強く肩を抱いてくれる彼の胸に頭をもたせ掛ける。
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