甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
もう少しで涙がこぼれてしまいそうになったその時、チャイムがリビングに響いた。

「瀬戸さんだな」

彼はゆっくりと立ち上がりモニターに出た。

モニターには長い髪を一つに束ねた瀬戸さんの姿が映っている。

「瀬戸です」

「どうぞ上がって下さい」

樹さんはモニター越しに声をかけ、マンションロビーの扉のロックを解除した。

しばらくして、再び玄関のチャイムが鳴る。

ぷーすけは垂れた耳をきゅっと立て、私の膝から飛び降りると一目散に玄関に走っていった。

そして玄関に向かって何度も大きな声で鳴く。

待ってたんだね。

ずっと瀬戸さんが戻ってくるのを。

その姿は寂しいけれど、あるべき場所に戻っていく幸せな光景として胸に刻まなくちゃと必死に自分に言い聞かせる。

樹さんが扉を開けると、白いゆったりとしたセーターに長いこげ茶のスカートを合わせた以前と変わらない清楚で美しい瀬戸さんが立っていた。

ほんの少し頬がやせたようにも見えるけれど、以前よりもずっと顔色はよく明るく見える。

「ご無沙汰しています。間宮さん、広瀬さん、本当にお世話になりました」

彼女は深々と私たちに頭を下げた。そして足元にじゃれつくぷーすけに優しく微笑むとその体を抱き上げた。
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