甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
「凛が合格したら、僕も君に見せたいものがある」

彼は賑やかな音が響く空を見上げて言った。

「見せたいもの?」

「うん。今制作中なんだけどね」

「制作中ってことは、何か作ってるんですか?」

口元を緩める彼の横顔を見つめながらワクワクしていた。

「その日まで楽しみに待ってて」

「はい」

見せたいものって何だろう?
私はワクワクする気持ちを抑え込んで綿菓子の最後の一つまみを口に放り込んだ。

露店の並ぶ賑やかな通りを過ぎても行き交う人たちの波はなかなか途切れることはない。

今日は正月だもの。しょうがないよね。

皆が新年に色んな思いを馳せて神様に祈りにいく日。

毎年家族で出かけていた初詣に、今年は樹さんと二人。

今年の一年はきっと特別な年になると思わずにはいられなかった。

「お腹空いちゃったな」

小さくつぶやいてみる。

「はい、どうぞ」

彼はにっこり微笑むと袋に入っていたもう一本のとうもろこしを差し出した。

私は「ありがとうございます」と言って、とうもろこしを手に取り一口頬張る。

樹さんが好き。

甘辛くてジューシーなとうもろこしの粒が、口いっぱいに弾けるのを感じながら彼のきれいな横顔をいつまでも見つめていたいと願っていた。


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