甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
実家の門は今までにないくらい久しぶりにくぐる。

両親の顔を最後に見たのはもう半年以上も前だ。

そんなことくらいでこんなに緊張しない。

私がこれから父と母に告げようとする思いは、一種の両親との決別。

決別という言い方は間違ってるかもしれない。

本当の自分を知ってもらう日。

例え、両親の意にそぐわなくても、もうその手を差し伸べてもらえなかったとしても、私は両親と離れて一人で自分の選んだ道を歩いていかなくちゃならない。

玄関の扉が開いた向こうに、今まで見たことがないくらい緊張した顔の父母が私を迎えてくれた。

これから私が告げようとしている言葉をまるで最初から知っているかのように。

父と母と、テーブルを挟んで座る。

母は随分と頬がこけたように見えた。

こんな勝手な娘でも、きっと心配していたに違いない。

そのこけた頬に胸が痛み、反射的にうつむいた。

切り出したのは父だった。

「元気にしてたか?」

その声は、優しく私の心に響く。

あれほどまでに両親から離れたいと思っていたのに、たったその一言だけで自分の決意が揺らぎそうになる。

「うん。元気。お父さんとお母さんは?」

私は顔を上げられないまま尋ねた。
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