甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
そして、私の目をまっすぐに見つめて言った。

「あなたが言いたかったことはそれだけ?」

私もしっかりとその目を見つめながら深呼吸する。

言わなくちゃ。

そのためにここに来たんだから。

「トリマーという仕事を知って、お母さんやお父さんの反対を押し切って資格も取ったわ。初めて自分自身で決めた道を一人で進んだの。こんなにも自分が夢中になって楽しんで勉強したこともなかった」

母は父と顔を見合わせ、そして二人はまた私に顔を向けた。

不安気だけどどことなく誇らしげな眼差しで。

「その間に出会った人たち、知識、時間は全部宝物。こんなに輝いた時を過ごしたのは初めてだった。私が今までなれなかった理想の自分に出会えた瞬間だったの」

胸がドキドキしている。
私の気持ち、ちゃんと届いてるんだろうか。

「これまでお母さんの言うことは絶対だったし、言ってることも間違ってはいない。だけど、私の心の片隅にある本当の気持ちはずっと言えないままだった。それはお母さんが私にとって必要だったし、お母さんがそばにいないと何もできないと思っていたから……」

母は黙ったままテーブルの上に視線を落とす。

「お母さん、お父さん」

私は大きく息を吐き、二人を交互に見つめた。

「これからの私の人生は、誰に決められることなく自分が選んだ道を歩いていきたい。歩いていけるって自信が今の私にはあるの」

父が母の肩に手を置き、優しい声で尋ねる。

「例え、どんな試練がこの先待ち受けていたとしても後悔はしないかい?」

「ええ、後悔なんかしないわ。だってなりたい自分がそうするって決めたんだから」

「なりたい自分?」

「なりたかった自分に今はなれてるの。何が起きたって怖くない」

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