甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
母は視線を落としたまま静かに言った。

「それはあなたの覚悟と受け取っていい?」

「はい」

ゆっくりと視線を上げた母の目は僅かに潤んでいるように見えた。

「いい時間を過ごしたのね」

私も母の目を逸らさず頷く。

母は、忘れていた呼吸を思い出したかのように大きく息を吐くと、椅子の背にもたれ少しだけ微笑んだ。

「いつの間にか大人になっちゃって。なんだか泣けてきちゃう」

母はそっと目頭をぬぐうと椅子を引いて立ち上がり、父に顔を向けた。

「これからは私たちも二人の人生楽しまなくちゃね」

父は一瞬目を丸くしたけれど、すぐににっこり笑い母の手の上に自分の手を重ねる。

ずっと怖くて、その目や言葉に歯向かえなかった自分だったのに、今はこんなにも穏やかに両親を見ていられる。

もう怖いだなんて思わない。

なりたい自分になって、自分の気持ちをちゃんと伝えることができたから?

それとも私が少し大人になったからかもしれない。

「それで、例のなんでも屋さんとはどうなの?」

母は急に私の顔を覗き込み首を傾げながら意味深な顔で笑った。
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