甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
「さ、とりあえずリビングのソファーに座って。コーヒーを淹れるから」

私は革張りのいかにも上等なソファーに腰を下ろす。

ソファーは緩やかな曲線描いたフォルムで窓に向けて置かれていた。大きな丸い窓からは穏やかなさざなみが見える。

キッチンからはブクブクと湯が沸く音とともに香ばしいコーヒーの香りが漂ってきた。

香りの中に彼の声が響く

「明日も珍しく休みが取れたんだ。明日までこの船で過ごさないか?」

「え?本当ですか?」

忙しい樹さんとはせいぜい丸一日一緒に過ごしたことしかなかった。それなのに、明日までなんて!

「鍋島情報ではここ一週間は穏やかな海だってさ。明日まではとりあえず嵐が来ることはないからゆっくり海の上で過ごせそうだよ」

海の上って、二人きりだよね。

誰にも邪魔されないこの船で、久しぶりにゆっくりと樹さんと過ごせることに嬉しくて身体中が火照ってくる。

そこへコーヒーカップを手にした樹さんがリビングに入ってきた。

「固まってるけど大丈夫かい?」

黙ったまま座っている私の顔を覗きこみ、笑いながら尋ねる。

「はい、感激しすぎて放心してました」

「フリーズされちゃうと、また余計なこと言ったかなって心配になるよ、はいどうぞ」

彼はそう言うと、いたずらっぽい表情をして私にカップを差し出した。
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