甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
3.窮地
3.窮地


その日は朝から気分がよくて、仕事もいつも以上に捗っていた。

きっと今日は運勢がいいんだ。

最近あまりついてなかったから、神様がくれたご褒美デイ。

なんて勝手に思い込んでいたのが馬鹿だった。


定時を過ぎて、帰り支度を始めていたら突然榎木課長に呼ばれた。

「広瀬さん、ちょっといい?」

「はい」

私はパソコンを閉じると、すぐに席を立ち榎木課長の元へ急いだ。

「この書類、明日朝一番に間宮デザインに届けたいんだ。例の魔法チョコのパッケージデザインの校了戻しなんだけど締め切りが明日の午前中でね。朝立ち寄りで構わないから届けてもらえる?」

間宮デザインに?って、ひょっとして間宮さんに渡すの?

必死に忘れようと努力しているのに、なんてこと!

その名前を思い出しただけで、胸がどきどきしてくる。

「広瀬さん?」

何も言わず立ち尽くす私を榎木課長は心配そうな顔で覗き込んだ。

「あ、すみません。わかりました。お預かりします」

「申し訳ないがよろしく頼むよ。重要書類だからくれぐれも取り扱いは気を付けて」

「はい」

私は『間宮デザイン 間宮 樹様』と書かれた封筒を課長から受け取り胸に抱いた。

公園で彼女と二人でいるところに遭遇したのはつい1週間前のこと。

毎日、その顔や声や姿を忘れたくて、いろんなことをしたのに、やっぱり夜寝る前に思い出すのは間宮さんの優しい微笑みだった。
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