甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
「凛は知ってるだろうけど、私は大学の時、殻破ったわよ。だから今こうして自由に自分の好きな道進めてる。そりゃ、今は以前よりも大変だしつらいこともいっぱいあるわ。だけど、自分で選んだ道だから後悔なんかしてない」

弥生の話を聞きながら、私は何一つとっても後悔ばかりだなと思う。

彼女は大学の時、一つの決心をした。

本当の自分をさらけ出して、自分の選んだ道を進んでいくって……。

いつも明るくて元気な弥生は、誰にも言えない事情を抱えていた。

*******

高校三年の夏休み。

足しげく通っていた図書館で弥生の姿を見かける。

人気者の弥生には取り巻きが多くて、いつも一歩出遅れる私はなかなか話す機会はなかったから、思い切って一人でいる弥生に声をかけようとした。

だけど、出来なかった。

個別に仕切られた学習机で、彼女はハンカチで鼻を抑えて声を殺して泣いていたから。

目を真っ赤に腫らして、次から次へとあふれる涙を手の甲で何度も拭いていた。

いつも笑ってる弥生からは想像もつかない姿にひどくショックを受けたことを覚えている。

そんな弥生の姿を見たのはそれが最後で、それから図書館で見かける弥生は普段と変わらないいつも明るい表情を称えていた。

あの涙のわけがなんだったのか聞けないまま、弥生と顔を合わせるうちに少しずつ話すようになって親しくなっていった。






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