甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
「あの、きれいな女性は?この間公園でお会いした」

丁度、目の前の信号が赤になり車は停車した。

間宮さんは私に顔を向け、軽く微笑む。

「あのぷーすけの散歩のときに一緒にいた彼女のこと?」

「はい」

「彼女がいるんだったら、家には行けないってことかい?」

「はい、まぁそんな感じです」

彼女がいたら行けないっていうか、彼女でもないのに行ってもいいのかっていうのもあるけれど聞きたいことに焦点を絞って話を合わせる。

「彼女はパーソナル・サポートの顧客の一人」

顧客?

「本当ですか?とても親しげだったから私はてっきり」

「付き合いは長いからね。彼女からの依頼を受けたのはもう二年前になるかな」

顧客だったんだ。
彼女でも奥さんでもなかった。行くも行かないも決める以前に勝手に自分の口元が綻んでしまう。

サイドミラーに映ったそんな自分の顔に気づいて慌てて両手で口を塞いだ。

「着いたよ。まだ広瀬さんの返事は聞いてないけど」

車は隣町の高級住宅街に建つ重厚なマンションの前に停車していた。

ここまで来てしまって、今さら無理ですなんて言えない。

だけど、正直なところ、間宮さんの家がどんなだか興味もあった。

心の中で母の顔を思い浮かべ、『不束な娘でごめんなさい』と唱えると、私の反応を心配そうに見つめる間宮さんの目をしっかり捕らえる。

そして、ドキドキする胸にそっと手を当てて言った。

「少しだけ......お話をお聞きする間だけお邪魔させて頂きます」
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