甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
間宮さんは優しく微笑み頷くと、再びエンジンをかけマンションの地下駐車場に向かう。

今まで男性の家に一人で行くなんてことなかったし、行きたいと思った相手もいなかった。

こんなこと許されるんだろうか。

まだ誰ともちゃんと付き合ったこともないし、間宮さんがどんな人なのかも正直よくわからないのに。

自分の軽率な行動に思わずため息が漏れる。

私っていう人間は、こんなんじゃなかったのに。

ひょっとしたら間宮さんもそんな軽々しく誘いに乗る私を、見た目通りの尻軽女だと思ってしまったかもしれない。

もし、そうだったらどうしよう?

私、間宮さんに部屋で速攻襲われるかもしれない!

いやいや、間宮さんはそんな悪い人ではないはず。

人助けを進んでするような人だもの。

そんなこと、絶対あり得ない。

そう思いながらも、初めてそんなことを決断してしまった事にわずかながら後悔と自責の念に苛まれていた。

「どうぞ」

私が座る助手席の扉が開き、その扉を開ける間宮さんの柔らかい表情を見たらさっきまでの迷いは一瞬で消える。

「ありがとうございます」

私はそう言って車を降りた。

間宮さんはきっと大丈夫だ。私が今まで見てきたような男性じゃないような気がする。

それは私が彼に惹かれているから、そんな風に思えるのかもしれない。

なんて私ってば単純なの!
恋っていう気持ちは今まで持っていた価値観を簡単にぶち壊していくものなんだ。

彼の大きな背中を見上げながらその後ろを付いていく。

そして、彼はエレベーター前で立ち止まり私の方に顔を向け「5階まで上がるよ」と言った。
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