甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
その時。

「キャンキャン!」

甲高い劈くようなその声が私の耳に飛び込んできた。

玄関に、舌をベロンと出して笑ってる丸い顔。

「ぷーすけ?」

思わずその名前が口からこぼれた。

久しぶりのぷーすけは私を覚えていたのか嬉しそうに短い尻尾を振りながら足元にじゃれつく。

私はしゃがみこんで、全身で喜びを表してくれるぷーすけの丸い顔を撫でまわした。

家には彼一人じゃないって、ぷーすけのことだったのかしら?

「やっぱり、広瀬さんはすごいな」

そんな様子を見ていた間宮さんは感心したようにうなずく。

「ぷーすけは本当に気難しいやつなんだ。僕だって一対一で遊べるようになったのはつい最近なのに」

本当かなぁ。

だって私にはこんなに笑ってじゃれついてくれるのに。

「飼い主も妬いてるよ」

腕を組み、片手を顎に乗せながら苦笑する間宮さんの顔を見上げる。

「今も飼い主そっちのけで君に夢中だ」

「飼い主って間宮さんじゃ?」

廊下の向こうに続くリビングに人影が見えたような気がしてそちらに目を向ける。

「こんにちわ、広瀬さん」

繊細で透き通るような声が廊下を伝ってきた。

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