甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
「私が転倒したときにどうも落としちゃったみたいで。この駐車場内のどこかにあるはずなんだけど」

シャッターの隙間からその奥の様子を伺う。

薄暗くてよく見えないけれど、安友さんは、シャッターに右足を挟まれた状態で横倒しになっているように見えた。

中にいる安友さんに声をかける。

「外から駐車場に入れる箇所はありますか?」

「ええ。家の中のエレベーターと駐車場が直結してるんだけど。家に入る鍵が私から少し離れたところに落ちてしまったバッグの中にあるの。あなたから見えるかしら?」

家の中にエレベーターがあるんだっていうことろに驚きつつも、とにかく家の中に入る鍵が必要だわ。私は目を凝らしながら中を必死に覗き込んだ。

安友さんが倒れている1メートルほど先に白いバッグらしきものが転がっている。

「あの白いバッグですか?」

「ええ。それ」

シャッターから二メートルくらい先にそのバッグはあった。

もちろん手が届くはずはない。

長い棒みたいなものがあればいいんだけど……。

私は立ち上がり周囲を見回す。物干し竿とかないかな。

安友邸は、木造づくりの立派な門構えに家の周囲は私の首あたりまでの石垣とその上に金木犀らしき垣根で囲われている。

垣根の葉の隙間から庭を覗き込むと、庭が少し見えた。

庭の様子までわからないけれど、中に入れればなにか使えるものがあるかもしれない。

だけど、門扉はしっかり施錠されているため入れないので、中に入るにはこの垣根を乗り越えるしかなかった。

うっそうとした垣根はおそらく痛いし、簡単には乗り越えられないのは一目瞭然。

だって、簡単に入れる垣根なんて意味ないものね。
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