甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
門を出ると急いで駐車場に向かう。

「安友さん!遅くなりました。大丈夫ですか?」

私は声をかけながら、まずは物干し竿をシャッターの隙間に入れていった。

「……大丈夫だった?犬は?」

「大丈夫でした。とてもおりこうな犬ですね」

「え?何もされなかったの?!」

安友さんはシャッターの奥から驚いた様子で尋ねた。

「ええ、全然」

私は気に留めることもなく、物干し竿を伸ばしていく。そして、なんとかバッグに届いた。だけど、手持ち部分にひっかけようとするもなかなか難しくて手が震える。

「難しそうね」

安友さんが小さくため息をついたのがわかった。

「もう一つ拝借させて頂きました」

そして、柄の長い竹ぼうきに持ち替え、少しずつ中に入れていった。

「あら、竹ぼうき?なかなかやるわね」

「念には念のタイプなので。やるからには失敗は許されないんです」

「まぁ、それは頼もしいこと」

安友さんは朗らかに笑った。

私も言いながら少し笑ってしまう。

中から安友さんも利く方の手でほうきの位置を調整してくれ、ようやくバッグの持ち手に先が引っ掛かった。

「やった!」

そう叫んだのは二人同時で、そのあとすぐにその声は二人の笑い声に変わる。

バッグをゆっくり手繰り寄せ、安友さんに聞いた通りの場所に家の鍵が見つかった。

「すぐに駐車場の中に行きます」

「ええ、お願い。玄関を入ってすぐ右手奥にエレベーターがあるわ」

私は鍵を持って再び門へ急いだ。
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