甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
車いすに乗せた安友さんとエレベーターに乗り、邸宅の一階へ移動する。

そして、エレベーター前の廊下を進み、広いリビングに入った。

全ての家具やキッチンは一般のものよりは低めで、安友さんが車いすでも作業が楽にできるように作られているようだった。

動線もきちんと確保されているので、車いすで一人で動くことも特に問題なさそう。

安友さんは「少しそのソファーで待ってて」と言い、キッチンでお茶を入れてくれた。

お茶をキッチンまで取りにいくと、彼女は笑った。

「大丈夫大丈夫。なんでも一人でできるから」

そう言って、自分の膝の上に置いたお盆の上にお茶の入ったカップをのせると、平行に保ちながらリビングに移動する。

私は安心してソファーの前に座り、安友さんからお茶を受け取った。

ようやく一息ついたときに飲むお茶はなんておいしいんだろう。

体中にその渋みが温かく染みわたっていく。

「今日は本当にありがとう。何でも一人でできるから大丈夫なんて言っているけど、あんな風に横倒しになって足を挟まれたらどうしようもないわね」

「足は大丈夫でしたか?」

私は挟まれていた方の足に視線を落とし尋ねた。

「ええ。多分ね。いずれにせよ感覚はないから問題ないわ」

そんな自分の体を明るく笑える安友さんの強さに尊敬の念を抱かずにはいられなかった。

「あなた、お名前は?」

ああ、まただ。苦笑しながら答えた。

「広瀬凛です」

「凛さんね。あんな勇気ある行動する女性だから、暗がりの中では、もっとがっしりとしたたくましい人だと想像していたけれど、こんな愛らしい女性だったのね」

私はなんだか気恥ずかしくなって首をすくめて口元を結んだ。


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