桜の木に寄り添う

過去と悪夢

私の名前は、橋本なつみ。

 私の家の隣には、大きな、大きな桜の木がある。

 あの桜の木は、ずーっと私の成長していく姿を見守ってくれていることだろう。

 私が子供の頃、ある男の子と出会った。

 名前は……。

 今、あの子は何してるんだろう。
 突然、いなくなってしまった、あの男の子。
 目もぱっちりしていて、背も高かった。

 でも……突然いなくなってしまった。

 窓から見える桜の木は少しだけ小さく見える。

 もう一度だけ逢えるといいな。

 もう一度だけ逢えたなら。

 ……キキーーー!!

 ドン!

「は!またあの夢 」
 すごい汗だ。



「なつみー!朝ごはんだよー!」

「はーい。よいしょ 」

 カタカタカタカタ……

 私は、2年前事故にあってしまった。
 幸い、命は助かった。
 それからは、私は……トラウマを背負ってしまった。
 青信号で渡っていたのに、トラックがまっすぐ突っ込んできたのだ。

 それから車いすになってしまった。
 悲しさや悔しさは、沢山ある。
 でも事故のせいにして、生きているのも辛くてたまらない。
 助かった命を、大切に生きて行こう。
 少しずつそう思えるように。
 でも。悪夢はいつまでも私につきまとう。


「なつみ、顔色悪いよ。大丈夫?またあの夢を。」

「平気。心配しないで……今日のフレンチトースト上手くできたね!」

 バタバタ。

 お母さんは、いつも忙しそう。
 だからこれ以上、心配をかけないように生きていきたい。

 幼い頃からずっとそうだった。

 沢山の会話をした記憶があんまりない。
 友達が家族でいつも出かけていた、遊園地。

 数える程度は、行ったかなぁ。

 でも私は、我慢なんかしてないよ。

 わかっているから。
 幼い頃から、ずっと。

 子供の頃には分からなかったことが今になって、わかってくるようになる。


「でしょ?お母さん、今日仕事で遅くなるから。冷蔵庫に入ってるハンバーグ、チンして食べてね 」

「はーい。いってらっしゃい 」

 ガチャ。扉を閉める。
 お母さんは、いつものようにバタバタと行ってしまった。

 カタカタカタカタ……。

 はぁ……。

 ……私は部屋に戻り、窓の外を見ていた。

 もうすぐ春になる。
 温かい風が、春が来ることを知らせてくれている。

 もうすぐだなぁ。

 桜が咲くそんな季節に……。
< 1 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop