桜の木に寄り添う

温もり

言われてしまった言葉は、仕方のない現実ではある。今はまだ何も始まっていないから。
 私は今ある現実を受け止めて乗り越えるしかない。
 しばらく、ヒロキくんに連絡する事は控えよう。
 私の中でもう少し頑張ることが出来たら、その時に改めて告白しようと……

 コンコン
「 なつ?入るよ 」

 そう言うと、よっちゃんが私の部屋へと入る。

「 よっちゃん、私ね、しばらくヒロキくんに連絡するのは辞めようと思う。だからもう少し東京に来るのは待って欲しいって伝えてくれない? 」

「 うん。分かった。それまでは俺がこっちに残っていいかな? 」

「 うん。ありがとう 」

 これが正しい事かは分からない。
 でも今、会ってしまうときっと甘えてしまう。
 これじゃ、駄目なんだよ。
 誰かに甘えていたら、今までと何も変わることが出来ないから。

 もう少しでお店もオープンを迎える。
 落ち着いてお店をオープンさせたかったというのもある。

 それから考えよう。これからの事を……

「 よっちゃん、私頑張らなきゃ。だって…… 」

「 頑張ってるよ。これ以上頑張ってもなつが壊れちゃうよ 」

 カタッ
 そう言うとよっちゃんは、私を後ろから抱きしめた。
 私は振り払う事はしなかった。
 きっと誰かに抱きしめてもらいたかったのかもしれない。
 誰かの温もりを感じたかったのかもしれない。
 たとえ相手がよっちゃんだとしても……


 再び私の目から涙が溢れ始める。
 その時、私は心の中で思った。

 少しの間でいい。
 このままで居させてくださいと……

 よっちゃんの腕に抱かれながら私は心の落ち着きを取り戻し始めていた。

 この瞬間、私の中で何かが変わったような気がしていた。

 さっき言われてしまった事が受け止められるような大きい心を持っていないのかもしれない。

 不思議……
 涙と共に心がどんどん落ち着いていった。
< 102 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop