桜の木に寄り添う

心の中で

目を瞑り、心の中で助けて!と叫んだ瞬間。

 車は、私を追い越し事故にはならなかった。
 運転手は、私を睨みつけるように通り過ぎて行った。

 よかった……怖かった。

 昔の事故の事を思い出してしまい、体がすくみ動けなくなってしまった。

「 なつ!! 」

 誰かが後ろから私の名前を呼び、車椅子を動かしてくれる。

 後ろを振り向いた私は、涙が出て全身の力がぬけてしまったような気がした。

 ヒロキくんだった。
「 なつみ!何してんだよ!」

「 ヒロキくんこそ、どうして……? 」

 涙で目がかすんでいる。

「 今東京に着いたんだよ。早めに来るって言ったけど? 」

 きっとよっちゃんに伝えていたんだ。
 でも私が、会わないって言っていたから言えなかったのかもしれない。

「 ちょっと、どこかに入ろうか 」

 ヒロキくんは、そう言うと車椅子を押し始めた。

 私は顔を下に向けて、涙を必死に隠そうとしていた。
 ヒロキくんは、私が泣いているのを気づいているだろう。

 でも、知らないふりをしていつも通り接してくれている。
 普段通りに接してくれる。
 そんなヒロキくんの心遣い、本当にいつも感謝している。
 私は馬鹿だった。
 会いたくないとかそんな幼稚な事を考えていたなんて。
 いつも助けられているのに。
 そんな事も分からなかったなんて。
 自分の小さな気持ちが情けなくて惨めに思えた。

 いつもありがとう。ヒロキくん。

 私は、そう言った。

 心の中で……
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