桜の木に寄り添う

私の心の声など聞こえるはずもない。
 そんな事は分かっている。
 ちゃんとした言葉で伝えられればいいのだが、そんな勇気もなかった。

 私はヒロキくんに押してもらい、カフェへと入った。

「 いらっしゃいませ 」

 私はヒロキくんと同じカフェオレを頼み、私達は話始めた。

「 なつ、何で道路にいたんだ!危ないだろ! 」

「 車がきて、動けなくなって…… 」

 本当に怖くて、体が動かなかった。
 怖いと人って、動けなくなってしまう。改めて感じさせられた瞬間だった。

「 今はあまり一人で出歩くなよ 」

 ヒロキくんは、そう言うと辛そうで寂しそうな表情を私に見せた。

 その話をしてる間にカフェオレが私達の目の前に運ばれてきた。

「 あとさ…… 」

 ヒロキくんは、何かを言いかけた。

「 何? 」

 言いにくい事なのだろうか。
 鈍感な私でもそのくらいの察しはついた。

「 妹がなつのとこに行っただろ?何か言ってた?」

 妹さんのこと……

「 特に何も言われてないよ!大丈夫! 」

 私は本当の事を言ったら、悪く言ってしまいそうな自分を必死に抑えた。

 私、嘘をついてしまった……

 大好きなヒロキくんに。

 兄妹の事を悪く言われたら誰だって嫌な思いをする。
 妹さんだって、ヒロキくんの事を思って言っていたに違いない。

 でも心がチクッと痛かったのだ。
 小さな嘘をついてしまったから……
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