桜の木に寄り添う

偶然

やっぱり、あの人……だったんだね。

 心臓が飛び出そなのを必死に隠していた自分がいた。
 へんな胸騒ぎもしていた。これで本当に良かったのかはわからない。
 一瞬で、私のとってしまった行動は、自分でも何が起こったのか、わからないくらいに意外なものだった。


 ーー安西宅にてーー

「ヒロー、なつみちゃん可愛かったでしょ?まさか知り合いだった?」

「いや、知らない。」

「そう、なんか知ってそうな感じがしたー。」

「そう?」

「うん。」

 二人はよそよそしさを残しながら会話をしていた。
 女の勘が働いた安西をヒロキは、全くと言ってもいいほど、気づいていなかった。

 ーーーーーー


 安西さんの彼氏だったんだ。
 綺麗な人だもんね。仕方のないこと。
 自分にそう言い聞かせてはいるが、少しショックではある。
 幼い時によく遊んでいたヒロキくん。

 最近、手紙をくれた人。
 桜の木の袋の人。
 道で助けてくれた人。

 全て同一人物だったんだね。

 会えたけど。

 会えたんだけど。

 まさか、安西さんの彼氏だなんて。
 こんな形での再会は、望んではいなかった。

 はじめましてと言ってしまった。


 一目惚れをしてしまった、そんなような感情だった。
 ドキドキと何か悪いことをしているような……。



 まさか、こんな偶然な事があるなんて。

 手が震えて、胸がドキドキして、今すぐ去ってしまいたいくらい恥ずかしい気持ちと、車いすである自分が見られたくないという気持ちもある。

 その一瞬の出来事が……その時間がとても長く感じた。
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