桜の木に寄り添う

色褪せたキーホルダー

「 もしもし、なつみちゃん。会いたいんだけど……」

「 はい。次のお休みの日に会いましょう。あのカフェで 」

 次の休みの日に会う約束をした。
 安西さん、いつもより重い空気だった。

 何か伝えたい事がありそうな雰囲気で、どこか悲しそうにも思えた。

 私も安西さんに伝えなければいけない。そう思っていた。

 言わなきゃいけないとわかっていても時間が過ぎるとともに、なかなか言えなくなるもの。

 もしかしたら、もう、ヒロキくんが言ってるかもしれない。
 考えていても、なにも変わらないのはわかっている。
 それでも、あの二人の事が気になって仕方なかった。
 なぜか、嫉妬してしまっている気もした。

 よし、仕事しよう。

 仕事へ行く前に、手紙の返信がきているかもしれないと思い、桜のポストを覗いた。

 あ、何か入ってる。
 茶封筒にゴツゴツしたものが入っていた。

 手紙と一緒に入っていたのは……桜の花びらが入っている、キーホルダーだった。


 花びらの色が色あせていた。


 昔、渡せなかったやつ。

 それだけ書かれていた。
 とても愛おしく思えた瞬間だった。

 クスッと笑ってしまった。

 ずーっと持っていてくれたんだね。

 ありがとう……




 お店に着いて開店の準備をした。

「 なつ、私お腹に赤ちゃんがいるの。出産してしばらくは、お店の事お願いね 」

「 えーーーー。店長何も言ってなかったじゃん。びっくりです 」

「 わざと秘密にしてたの。なつ、最近暗い顔してたし。そのときはお願いね 」


 嬉しい報告だった。

 突然の事で驚いたけど、自分のことのように嬉しかった。

 お店、頼まれたし、がんばらなくちゃ。

 店長には、お世話になりっぱなしだから。


 私で役立つことがあるなら、それは嬉しいことだよ。


 今日は、コウちゃんのバーへ行くことにした。
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