桜の木に寄り添う

新たな入居者

帰り道、桜がもう咲いていることに気付いた。

「 もう、咲いてるね 」

「 なつ、花好きだもんね!」

 どれだけ周りを見ていなかったんだろう。
 目の前の事を受け入れるだけで、精一杯だったんだと思う。

「 私ちゃんと見えてなかった。色々と 」

 もう春が来てたんだね。甘く切なく、心を色づかせてくれる。私にとっては、そんな季節。

 そうだ。
 帰ったら、部屋の模様替えもしよう。
 ネイルもかえよう。

 すべて新しい気持ちになるために。
 気持ちを切り替える為にも。

 ーーーーーー

 家の外に誰かいる。

 リエだ。
 車を止めて、先に外へ出る。

「 どうしたの?」

「 なつ。助けて 」

 子供みたいに思いっきり泣いていた。

「 とりあえず中に入ろう 」

「 うん 」

 しばらく泣いていて話すどころではなかった。

「 あのね、う、う、浮気されたから別れてきたー。もうあっちにいれない 」

「 しばらくここにいる?」

「 いいのー?」

 その言葉を待っていたかのように、すぐ笑顔になった。

「 なつもお人好しだね 」

 コウちゃんが呆れた顔をしている。

「まあ、みんなで仲良く暮らそう!」

「あれ、みんなここに住んでんの?」

 リエは驚いている。

 ポジティブ主義のリエはすぐに打ち解けた。

「 私、お店行ってくるね 」

「 俺も行く 」

 二人で一緒に家を出た。

「 あのさ、あのポスト……ダサい 」

「 え?」

 たしかに。言われてみれば形も変だし。
 でもいきなり言わなくても……。

「 新しいの作るよ 」

「 いいの?」

「あれ……。ほんとにダサい 」

「 何回も言わないで 」

 ーーーーーーそのころ家では。

「 コウちゃん、なつとあいつどうなってんの?」

「 べつにどうもなってないよ。なつは好きっぽいかな。まあ、見守りましょ 」

「 ふーん。コウちゃんそれでいいの?なつの事まだ…… 」

 言葉を遮るように答えた。

「 私、今は男子派よ!何言ってるの!」

「 今日は飲もう!」

 その時、リエは思った。
 コウちゃんは、なつのそばに居たいんだ。友達として守っていきたいんだ。
 それがどんなに切ない事だとしても。


 そんな風に思っていた。
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