桜の木に寄り添う

約束とメモ

「明日、みんなで東京行かない?」

 リエが突然言い出した。
 絶対、彼氏に会いたくて言い出したんだ。

「車でならすぐ行けるでしょ?ねー、行こう!」

 一度は行ってみたいけど。
 お洒落な街。お店も沢山ある。
 私がお店を出すのは絶対、東京がいいって決めている。
 多くの人達と関われるから。

「うん!私も行ってみたい!」

「なつなら、そういうと思った!じゃ、決まりね?約束だよ!」

 楽しみだな。
 お店の下見とか、部屋に飾るお洒落な雑貨とか。

 やりたい事が沢山ある。
 次の休みが早くくればいいな。

「仕事、行ってくるね!」

「いってらっしゃい!」

 家の隣に寄り添うように咲いている桜。
 もう満開で、少し散ってきている。儚い。
 桜の絨毯みたいで花びらが散っていても綺麗。

 あ。ポスト。
 新しいのになってる!
 桜の花びらの形をしていた。いつの間に作ってくれていたんだろう。
 可愛くて、ピンク色の小さなポストだった。

 こんなに器用に作れるんだ。
 ありがとう。ヒロキくん。
 手紙も入っていた。

『仕事、頑張れ 』

 いつもながらに短い文章だった。
 口下手だけど、気にかけてくれたんだね。

 幼い頃、いきなり現れて、いきなりいなくなってしまった男の子。

 また、いなくならないよね?
 急にいなくなってしまわないか不安だった。
 私は自分に自信があるわけでもない。
 楽しい時間は、すぐ終わってしまうような気がしていた。
 ーーーー

 お店に着いたら、何かメモが挟まっていた。

 なんだろう。差出人も何も書いていない。

『なつみは、最低な女だ 』
 雑な字で、そう書かれていた。


「なつみさん、おはようございます!」

 スタッフの子達が後ろから声をかけてきた。
 私は、そのメモを慌てて隠した。

 どうして。誰が。あきらかに嫌がらせの手紙。
 怖い……

 震える手を必死で抑えた。

 でも、私は何もないような顔をして、仕事を始めた。

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