桜の木に寄り添う

オーナーの正体

東京に来た次の日。
 私は朝から忙しくしていた。

 店長に紹介してもらった店舗に向かった。

 ここかなぁ。

 ホテルからは、わりと近くて小さな小さな店舗だった。
 そこは私の理想通りだった。

 今日はここでビルのオーナーと待ち合わせをして
 いた。

「こんにちは!」

 後ろから落ち着いた声をした女性に声をかけられた。
 パッと顔を見た瞬間、驚いた。

「上重さん!!!なんで?」

「私がここのオーナーよ。驚かしてごめんなさい。店長には黙っててって言ってたのよ。」

「まさか、上重さんのビルだったなんて。」

「なつみちゃんがお店をやりたいのは知っていたから、いつか言おうと思ってたの。でも良かったわ。来てくれて。これから手伝わせてもらうわ。」

「ありがとうございます。何て言っていいか…。」

「いいのよ。これから頑張りましょ。とりあえず、中へ。」

 店舗の中を案内してもらった。

 私は持って来ていた内装のデザインを上重さんに見せた。

「内装なんですが、こんな感じにしたいんです。」

「いいわね。知り合いに頼んで安くやってもらいましょ。少し時間をもらうわね。」

「すみません。何から何まで。」

 打ち合わせも終わり、私はすぐにリエに電話をかけた。
 電話に出なかった。

 色々なお店巡りをしようと思い、駅近くまで出てきた。

 私は、車いすに乗っている。バタバタとみんな忙しそうに歩いている街。


 人の多さを見た途端、やっぱり行けなかった。


 田舎では気づかなかった事に、気づいてしまった瞬間だった。
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