桜の木に寄り添う

出会った場所

電車の窓から、あの町が少しずつ見えてくる。
 懐かしい……
 何も変わらずいてくれる町。

 また戻りたいと思える日が来るまで、私は戻らない。

 スーッと電車は止まり、お婆さんも私も電車を降りた。

「 大丈夫? 」
 お婆さんは、心配そうに私に話しかけた。

「 はい。ありがとうございます 」

「 見つかるように祈っているよ 」

 お婆さんは、そう言ってゆっくりと歩いて行ってしまった。

 私は、駅のタクシー乗り場に向かった。

 タクシーを待っていたら、後ろから声をかけられた。

「 おい! 」

 後ろを振り返ると、そこにいたのはヒロキくんだった。
 車で迎えにきていてくれたらしい。

「 なんでいるの? 」

「 メールきてたから、この位の時間に来るかなと思って 」

 返信もなかったから、私は無視されているのだとばかり思ってしまっていた。

 迎えにきてくれてるなんて思いもしなかったから、少し嬉しかった。

 車に急いで乗り込んで、最初に行く場所を伝えた。

「 本当にそこにいるの? 」
 運転しながら、ヒロキくんはこう言った。

「 わからない。でも行ってみるしかないよ 」

 不安で手が震えてしまう。
 手を両手で握りしめて、冷静な気持ちでいなきゃと自分に言い聞かせた。

 今、あかりちゃんがどういう気持ちでいるのか。
 きっと不安で泣いているかもしれない。
 そう思うと胸が締めつけられる。

 私とあかりちゃんが、一番最初に出会った場所。

 あの公園に、私達は向かっていた。

 少しずつ、あの公園が見えてきていた。
 どうか、ここにいて。

 私は……そう願った。
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