身ごもり政略結婚
愛していると叫びたくて Side大雅
風呂掃除をこんなに必死になってやったのはいつ以来だろう。


ひとりのときは週に何度かハウスキーパーに来てもらい、掃除は全部任せていた。

それが当たり前だったし、家より会社にいる時間のほうが長いせいか、特に部屋に入られてもなんとも思わなかった。


でも、結衣と生活しだしてからここが特別な場所になりつつあり、他の人に足を踏み入れられるのが嫌になっている。

たとえ、自分で風呂掃除をしなくてはならなくてもだ。


彼女が体調を崩す前は、どんなに遅く帰宅してもキッチンから食欲をそそるいい匂いが漂ってきたし、「おかえりなさい」と笑顔で迎える結衣がいた。

もう恋なんて絶対にしないと誓い、結婚後も彼女との間に線を引いていた俺だけど、健気な結衣を見ていると心が揺らぐ。


彼女は、普段の生活でも千歳で出会った情熱あふれる店員そのものだった。

普段は控えめなのに、俺が和菓子の話をすると途端に饒舌になる。
しかも、お父さんへの尊敬の念がひしひしと伝わってきて心地いい。
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