身ごもり政略結婚

「私……千歳の和菓子とエール・ダンジュのケーキがたまらなく食べたいです。でも、香りや味を思い出すと気分が悪くなってしまって。このまま食べられなかったらショックだなぁって」


少しずつ、胸の内を話してくれるようになった気もする。

きっと普通の夫婦なら当たり前の会話だが、彼女との距離がほんのわずかでも近づくのがうれしい。


「また食べられるようになるよ。先生が、つわりはかならず終わるものだからって言ってただろ?」


といっても、出産まで続く人もいるらしいけど。

ただ、二、三カ月の頃が一番ひどい人が多いと聞いているので、徐々に軽くなっていくはずだ。


「そう、ですね。エール・ダンジュの洋菓子は、いつか全種類食べたいんです」


結婚してから、機会があれば店から洋菓子を持ち帰っていた。
彼女がネットで調べてチェックしているのを知っていたからだ。
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