身ごもり政略結婚
もちろん、これは千歳の将来のためでもある。
目立つ宣伝をしてこなかったので、父や春川さんの高い技術を披露する機会もなかった。
でも、知ってもらえれば、もっとお客さまも増える気がしている。
「はい。父が得意で、春川さんも作ります。食べていただくものというより観賞用に。もちろん、味も保証しますけど」
「それはありがたい。今までの新作の素晴らしさは散々担当者がアピールしているけどもう一押しなんだ。これが最後の一手になるかもしれない」
彼は目を輝かせる。
仕事人間なのが寂しいと思うこともあったものの、人生をかけているかのような熱の入れようは嫌いじゃない。
「私、千歳に行ってきます」
「まだ匂いがダメだろ?」
「はい。でも、皆が頑張っているのに、私だけ寝ているのも……」
もどかしいというか、罪悪感すらある。
それに、私だけ取り残されているような気もして本当はつらい。