身ごもり政略結婚

大雅さんから千歳の状況について聞いたのは、それから二日後の金曜のこと。


「見せていただいたよ、はさみ菊。なんていうか……魂が揺さぶられるってこういうことを言うんだという経験をした」


珍しく興奮気味に語る大雅さんが、父の技術を絶賛してくれるのは素直にうれしい。

でも、なんだかひとりだけ蚊帳の外にいるように感じてしまい、いまいち気持ちが上がらない。

あれからいくつも新作のデザインを考えたのに、ちっとも浮かばないのだ。


ずっと家の中に閉じこもっているせいで刺激がなく、インスピレーションが湧かない。

そろそろ外に出ていきたい。

でも、どんな匂いがダメなのかよくわかっておらず気持ち悪くならないかと心配だし、食べる量がまだまだ少ないせいで貧血を起こして倒れるのも怖い。

倒れて赤ちゃんになにかあったら……と不安でたまらない。


私の使命は、この子を無事に――しかもできれば男の子を――産むことなのだから。
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