身ごもり政略結婚
「お母さんが亡くなってから、よく頑張ってくれた。定休日も帳簿付けや原料の発注で休めなかっただろ? 店に立つのは少し休憩だ。その代わり、新作のアイデアは結衣頼みだからな。ほら、メールに写真を添付だっけ? あれ、覚えたから。作ったらメールで送る」
機械音痴の父が、春川さんにひとつずつ教わっている姿が目に浮かぶ。
「ふふふ。でも、私が来ないと『こんなもの作れるか!』って文句言えないよ」
「それじゃあ時々遊びに来い」
「叱られるためになんて来ないわよ」
私が返すと、とうとう春川さんが笑いだした。
「はいはい。大将、餡が焦げます」
「おぉ」
私たちはいつもこうやって言い合いをして、春川さんに仲裁してもらって……千歳を守ってきた。
これからもずっとこんな日常が続いていくと思うと、胸が熱くなる。
お父さんとのケンカもたまにしないと調子が狂う。
「お父さん、大雅さんにお土産持っていっていい?」