身ごもり政略結婚

一転、声のトーンを下げた彼は、私をまっすぐに見つめる。


「赤池さんのことだけど……。彼女、この企画から外されて、次の異動で福岡のホテルに転勤になる。ハウスキーパーとして」

「ハウスキーパーって……。今回のことがあったからですか?」


驚愕で声も大きくなる。すると彼はうなずいた。


「八坂社長は切れ者だ。ずっとエール・ダンジュ推しだった彼女が突然もう一社に寝返ったからなにかあると思っていたらしい。金銭の授受とかね」

「わいろってことですか?」

「そう。あのはさみ菊を見たあとでもう一社に乗り換えるなんてありえないと。俺も、彼女がわかってくれたなら穏便に済ますつもりだった。でも、仕事に私情を持ち込まれるのは本意じゃない」


彼が唇を噛みしめるのを見て、その気持ちがひしひしと伝わってきた。


この企画に関しては、千歳に打診が来る前からずっと練られていたものだし、営業も一番優秀な人が担当しているそうだ。
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