身ごもり政略結婚

口角を上げていたずらっ子のように笑う彼は、エール・ダンジュの専務としての自信に満ちあふれた凛々しい表情とはまったく違う。

私とこの子だけに見せる素の姿なのかな?と思うと、家族っていいなと思えた。


夕食は私のリクエストでフルジェンテに向かった。
私たちが初めてデートをした場所だ。

と言っても、政略結婚を言い出されてピリピリしていたのだけど。

あのときはデサートだけの利用だったし、しかもよく味わえなかったので、もう一度行きたかったのだ。


つわりの間散々お世話になった炭酸水で乾杯したあと、食事を食べ進めた。


「どうして炭酸水がよかったんだろうね」
「どうしてでしょうか。妊娠するまではそれほど好きなわけでもなかったのに」


妊娠すると味覚が変わると聞いたが、それかな?


「あの頃、トマトは食べてたよなぁ」


前菜のひとつとして出てきたブルスケッタのトマトを見て、彼はしみじみと言う。
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