身ごもり政略結婚
あんなに苦しんだのに、今となっては思い出話になっている。
「初めて大雅さんに作ってもらった料理でしたね」
「料理って、切っただけだろ」
彼は体を小刻みに震わせて笑う。
「結衣、つわりを乗り切ってくれてありがとう」
私がブルスケッタを口に運んだあと、大雅さんは突然真顔になってそう囁き、テーブルの上の私の手を握る。
「大雅さんが助けてくれたから……」
最初はひとりぼっちだと思っていた。
でも、彼が距離を縮めてきてくれて……。
そういえばバスルームをびちょびちょに濡れながら掃除してくれたこともあったな。
意外に不器用な彼がおかしかった。
「いや。なにもできなかったなと反省してる。今、麻井と交渉してるんだ」
「交渉ってなにを?」
突然麻井さんの名前が出て首を傾げる。
「育児休暇」
「え!」
こんなに忙しくしているのに、無理じゃない?