身ごもり政略結婚

言葉なんていらない。彼の近くにいられるだけでこんなに心穏やかでいられる。

チラッと横顔を盗み見ると、彼はとてもリラックスした表情をしていた。


きっと彼も、私と同じように思ってくれている。

そう思うとますます心が温かくなった。



その年のクリスマスは、アルカンシエルに納入した錦玉羹がエントランスに飾られて大評判となり、千歳への注文もぐっと増えて、てんてこまい。


その錦玉羹は、私が提案した淡雪羹を雪に見立てて、クリスマスツリーやサンタクロース、さらには雪だるままで練り切りで制作して寒天の中に閉じ込めた、とても大きなものだった。

観賞用だけど、もちろん中の練り切りには自慢の餡も入っているし、味も保証付き。

とことん父のこだわりが詰め込まれている。
――デザインをのぞいては。


春川さんが、父がぶつぶつ文句を言いながらも、私のデザインにはなかった雪だるまの練り切りまで作り始めたときには噴き出しそうになったとあとで教えてくれた。
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