身ごもり政略結婚
「大丈夫ですか?」
「はい。まだはっきりとした陣痛が来ていないので、産まれるのは先かと」
そう伝えると「はー」と大きく息を吐き出している。
「経験がないもので、必要以上に緊張してしまいました」
「あはは。ごめんなさい」
独身の麻井さんには出産のことなんてわからなくて当然だ。
大雅さんだって私が妊娠したから勉強しただけ。そして私も。
「専務はすぐに抜けられず……とにかく私でもいいからすぐに向かってくれと言われまして」
「そうでしたか。ご迷惑をおかけしました」
「迷惑なんてとんでもない。私も楽しみにしておりましたし。今日の仕事が終わりましたら、きっちり十日間の休みを確保いたします」
そっか。スケジュール調整、大変だったよね。
「無理言ってますよね?」
「無理ですよ? でも、日頃お世話になっている専務と奥さまのためですから。社内でも専務が育休をとることに難色を示す者はおりません。むしろ専務は働きすぎだから、たまには自分たちが奮闘しようと意気込んでいるくらいで」