身ごもり政略結婚
偽りの新婚生活
――ちらほらと紅葉が始まる十一月上旬のその日。

千歳の店頭には柿の実や紅葉の葉をモチーフにした和菓子が多数並んでいた。


千歳は明治の創業当時は銀座に店を構えていたが、五十年ほど前に下町、根津に移転して営業を続けている。

私は、一応千歳の看板娘。
いつも若草色の着物を纏い、肩下十五センチほどの髪をかんざしでひとつにまとめて接客をしている。


和菓子を作っているのは、職人である父とそのお弟子さんの春川(はるかわ)さん。

春川さんは他の和菓子店で修業を積んでいたが父の腕に惚れ、八年前、彼が二十歳のときに千歳にやってきた好青年。

父もその能力を認めている真面目で有能な和菓子職人だ。

彼は古きものに固執している父とは対照的に新しきものを取り入れることに抵抗はなく、私と一緒に千歳に新しい風を送り込もうと努力している。
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