身ごもり政略結婚

「ありがとうございます」


私は彼から視線をそらしてお礼を言った。

けれどこれが感謝なのかなんなのか、自分でもよくわからなかった。



エール・ダンジュ本店は教会風の白いおしゃれな洋館で、屋根の上の風見鶏が印象的。

建物周囲のイングリッシュガーデンには秋咲きのバラがちらほら見える。

庭の真ん中の石畳を通り店内に入ると、プーンと甘い香りが漂ってくる。

私たちは窓際の一番景色のいい席に案内され、ケーキの盛り合わせをいただくこととなった。


これをわざわざ全国から食べに来る人がいるんだ。


最初に口にしたのは、この時期お勧めだと言う渋皮つきの栗の甘露煮が丸ごと乗ったタルト。

さっき『栗は好きですか?』と聞かれたのは、これを勧めたかったからなんだ。


「あっ……。おいしい」


結婚のことで頭がいっぱいだったのに、思わず声が漏れた。
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