身ごもり政略結婚

口に入れた瞬間にブランデーがフワンと香ってくるクリームは大人の味。

栗の渋皮のおかげでほんのり苦みもあるし、タルト生地はサクサクで、乗っているナッツ類は一つひとつ味付けが違う。

少しも妥協なく作られていると感じられて感心した。

これがエール・ダンジュの味か……。


「気に入ってもらえてよかった。これはいつまでも残したい商品なんだ」


敬語がなくなったのは、結婚を承諾したからなのかも。
彼も満足そうに口に運んでいる。

千歳の和菓子を食べているときも、こんな顔をしているのだろうか。


「コーヒーより紅茶派?」


次にそう聞かれてうなずく。
きっと私が紅茶を注文したからだ。


「コーヒーも好きですけど、紅茶を選ぶことが多いです」

「そう。俺は洋菓子を食べるときはコーヒーが多いけど、家では紅茶が多いかな」


初めてのプライベートに踏み込んだ会話のような気がする。

こうやって少しずつ彼のことを知っていけば、好きになれるかな。
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